
2025.11.30
アール・ブリュットインフォメーション&サポートセンター(アイサ)では、障害のある人の芸術活動を地域で展開・継続している団体の活動の場を訪問し、活動の実態やニーズを把握する調査を実施しています。訪問調査を行った団体の活動の様子をご紹介します。
アール・ブリュットインフォメーション&サポートセンター(アイサ)では、障害のある人の芸術活動を地域で展開・継続している団体の活動の場を訪問し、活動の実態やニーズを把握する調査を実施しています。訪問調査を行った団体の活動の様子をご紹介します。
おうみ作業所は1987年に開所したおうみ共同作業所を前身として、2002年に近江八幡市加茂町に知的障害者通所授産施設として開所されました。2023年には第2作業所となるきみいろをオープン。特殊浴槽や天井走行リフトなど充実した設備に加えて、カフェ「Den-en Kitchen」やイベントなどが開催できる多目的室を備えていて、地域に開かれた作業所となっています。
のどかな田園風景のなかに建つおうみ作業所ですが、目の前に岡山小学校があるというのが大きな特徴です。行き帰りの小学生が支援員や仲間(おうみ作業所では利用者のことを「仲間」と呼びます)に挨拶したり、手を振る様子が見られ、日常の中に障害者がいるという環境が生まれています。
「地域とのつながりが深いこと、岡山小学校と交流があることが、おうみ作業所の特徴であり強みです」と話すのは支援員の林遥さん。3年前から、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催している「滋賀県施設・学校合同企画展(通称:ing展)」の担当となり、実行委員として支援の現場で生まれた作品を展示する活動に取り組んでいます。
「おうみ作業所では造形活動や音楽活動という時間はとくに決めていなくて、自由に過ごすなかで絵を描いたり、歌ったりする人がいるという感じです。NO-MAの展覧会に声をかけてもらったことがきっかけで、仲間が作ったものを展示するようになったのですが、それまでは作品を見てもらうような機会もほとんどありませんでした。今でもing展以外で展示する機会はほとんどありません」
ing展への参加は2016年から。過去、おうみ作業所として5回、きみいろとして2回参加して、仲間の作品を展示してきました。昨年のing展に出展した堀尾敬子さんは、ご家族や仲間の皆さんと展覧会にお越しになり、ご家族が特に展示を喜んでくれていたとのことです。「私も作ったら展示してもらえる?」と関心を示した仲間もいたそうですが、堀尾さん本人の創作に変化が起こることはなく、むしろ、今では作品は作られていないそうです。支援員から「こんな作品作ったら?」と提案することはなく、余暇活動として、仲間が過ごしたいように、自由に生活してもらうという支援の方針が徹底されています。
「岡山小学校との交流は10年以上続いていて、歴代の校長先生の理解もあり、施設長がゲストティーチャーとして仲間のことを話したり、子どもたちがおうみせんべいづくりや空き缶つぶしの作業を見学に来てくれたりといった交流が続いています」と林さん。小学3年生ぐらいの子どもたちは、障害のある人と接しても違いを気にしたり、距離をとったりすることなく、個人として向き合うことができるそうです。お互いを「個」として認識する取り組みの1つとして続けているのが「名刺交換会」。調査当日、仲間たちが「名刺」を制作する様子を見学させていただきました。
「仲間の好きなタイミングで、強制することなく自由に参加してもらっています」という言葉のとおり、活動の時間が始まっても、部屋の出入りは絶えず、熱心に文字を書く人がいれば、支援員と遊んでいたり、跳びはねていたり、本当に自由な時間が流れています。名刺をつくるサポートとして、岡山地区の民生委員の3人がボランティアで参加。岡山地区の民生委員の方は、様々な場面でおうみ作業所の活動をサポートされているそうです。この日も仲間の相談に乗ったり、文字の部分を書く手伝いをしたりしていました。
2025年10月現在、おうみ作業所に通所している仲間は41人。この日の名刺作成には、20人ほどが参加していました。外部から人が来ると緊張して部屋に入れなくなる仲間もいるそうですが、できあがった名刺を見せてくれたり、ポーズをとってくれたり、制作の時間を楽しんでいる様子が伝わってきました。手元をよく見るとおもしろい文字が書かれていたり、シールを貼ってキラキラに飾ったりと、個性的な表現がみられました。作品といってもいいような魅力的な「名刺」がたくさん出来上がり、後日、岡山小学校の3年生と交換会が行われるということです。
「ハロウィンやおうみのつどいなど、地域の人が作業所に遊びに来てくれるおまつりがきっかけで、絵を描いたり、部屋の飾りをつくったりしています。そのなかから『これ、おもしろい』なと思うものがあれば、ing展に出展するようなことを考えるのですが、作品として販売したり他の展覧会に出展したりということは考えていません」
仲間たちが心地よく過ごすことを第一に考えているおうみ作業所ならではの自由な雰囲気のなかから生まれる作品に、アートとしての魅力が宿っていることもまた事実といえるように感じられました。